期待の乳がん治療薬「カドサイラ」(別称:T-DM1)を一日でも早く患者の元へ

 11月13日に中外製薬は、HER2陽性の手術不能または再発乳がんの適応で、すでに製造販売承認を得ている、抗HER2抗体チューブリン重合阻害剤複合体カドサイラ(一般名:トラスツズマブ エムタンシン) (別称:T-DM1) の薬価収載を見送ると発表しました。 乳がん患者さんの約20パーセントはHER2陽性であると言われています。(因みに私はHER2陰性でこの薬の対象患者ではありません。)このカドサイラは、多くの患者と医療者が期待をもって販売を待ち望んでいました。待っておられる患者さんの多くは、いわゆる「厳しい状況」にある患者さんたちです。予定では来年の初めには発売されるのではないかと、患者さんはもどかしい思いをしながらも希望をつないで待っておられました。
 この薬は、人類初のADC(antibody-drug conjugate)といわれる薬で、抗体薬と化学療法剤をリンカーで結合させた薬とのこと。カドサイラは具体的には抗体薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン)と化学療法剤であるエムタンシンを結合させた薬で、エムタンシンは癌細胞の中だけに到達するので、正常細胞には影響しないそうです。したがって脱毛、白血球減少がなく、吐き気もほとんど来ない、そして何よりも非常に効果が高い薬で、世の中を変えてしまうほどインパクトのある薬なのだと、私が信頼するドクターが教えてくださいました。
 患者さんはもちろん、医療者も、この薬が来年早々に発売されることを大前提に動いていたと思います。それだけ待ち望んでいた薬なのです。ところが、今月、薬価収載の審議会が厚生労働省で行われ、中外製薬と厚生労働省の審議官のあいだで薬価について折り合いがつかなかったようで、薬価収載が見送られるという最悪の事態となりました。審議官はADCというジャンルの薬にどれだけの開発費がかかって、どれだけ製薬企業が苦労したかを理解されておられるのでしょうか。まさか審議官は私のような医療の素人ではないのですから、カドサイラが単なるハーセプチンと抗がん剤の「混ぜ物」というような、全く見当違いのとんでもない評価はされないはずです。それならば、なぜ、中外製薬が薬価収載を見送る決断までせざるをえないような低い薬価評価をしたのでしょうか。次の薬価収載に向けた審議が来年の4月と聞きましたが、患者さんは6か月以上待たされることになります。この6カ月の発売の遅れは、カドサイラを待ちわびている再発乳がん患者さんを絶望の淵に突き落とす非情な仕打ちです。先にも書きましたが、この薬を待たれている患者さんは大変厳しい状況にある患者さんであるわけで、この6か月の遅れがどのような意味を持つかは、一般の皆さま方にも容易に理解していただけると思います。薬事行政のごたごたで犠牲になるのはいつも患者です。「生きたい、生きたい!」と思っている患者の気持ちを、「その薬を使いたい!」と思っている患者の気持ちを、どれだけ訴えれば救われるのか、憤りを通り越して、もはや息をするのも苦しいほどのこの思い、私たちは死にたくない、ただ生きたいだけなのです!そこにある、その薬を使えば命を繋ぐことができるのに、どうしてその薬を使うことができないのか、私たちの悲痛な叫びは届かないのでしょうか。
 治療費が高いことを嘆きもします。特に新薬が高いことは患者にとっては切実な問題です。ですがそれは、製薬企業を責めているわけではありません。特に今回のような画期的な新薬にはそれ相応の薬価評価はするべきであり、患者の負担軽減はその体制つくりをもって行政が負うべきです。がん対策基本法では「国をあげて」と言っているのですから、医療制度の抜本的改革が必要だと思います。新薬が高過ぎて、高額医療費制度を使わなくてはならない人が増えてくること自体が異常ですが、これは患者に不利益とならないような形で行政が折り合いをつけてくれなければいけないことで、根本的な解決が必要です。本当に困っている人は誰なのか、ステージに応じて救済するなど方法はあると思います。自己負担が抑えられると、今よりもっと救われる命がたくさんあると思いますが、これは今回の当局と製薬企業との間で薬価収載の折り合いがつかなかったこととは別次元のことであり、カドサイラに関してはすみやかに当局はこの薬を正当に評価し、薬価収載をへて一日でも早く厳しい状況にある患者さんの元に届くようにするべきなのです。
 カドサイラ(別称:T-DM1)が一日も早く患者さんの元に届けられるよう、ご関係のみなさま方には心からお願いするばかりです。今この時も、この薬を待ちわびている人の涙が私には見えます。顔が見えます。声が聞こえます。どうか、私たちの命を救ってください。

(写真:ジョンズ・ホプキンス大学病院ブレストセンターに飾ってある、乳がん撲滅の思いを込めたパッチワークキルトのタペストリー)

パッチワークキルト


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1958年5月生まれ
府中中央小学校(安芸郡府中町)、府中中学校、広島県立観音高等学校
1981年 広島女学院大学卒業、
    卒業後住江織物蟠侈
1985年 大阪市立中学校教諭
2003年 乳癌患者友の会「きらら」
    理事長
この頃から「医療=患者+医療提供者+行政でつくるもの」というコンセプトを基に、本格的なピンクリボン活動に奔走。がん検診啓発キャンペーンなど様々なプロジェクトを実践していく。
2008年 広島大学大学院
    総合科学研究科非常勤講師
   (〜2011年)

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夫、実母
<趣味>
おいしいものを見つけて食べること
花の写真を撮ること
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